みなさんこんにちは。海谷歯科医院海谷です。MTAセメントというものをご存知でしょうか?
MTAセメントは、ケイ酸カルシウムを主成分とする歯科用のセメントです。正式名称はMineral Trioxide Aggregateといい、その頭文字をとってMTAと呼ばれています。
もともとは建築用のポルトランドセメントと類似した成分ですが、歯科治療に使えるよう、有害な成分を取り除き精製されたものです。水分と反応して硬化する性質(水硬性)を持ち、特に歯の神経(歯髄)を守る治療や、複雑な歯の根の治療において画期的な材料として注目されています。
MTAセメントには、従来の材料にはない優れた特徴が多くあります。
- 高い殺菌作用 硬化する過程でpH12以上の強アルカリ性になるため、虫歯の原因菌などを殺菌する効果が非常に高いです。
- 優れた封鎖性 硬化する際にわずかに膨張するため、治療した部分の隙間を緊密に封鎖できます。これにより、細菌が再び侵入するのを強力に防ぎ、治療後の再感染リスクを大幅に低減します。
- 生体親和性が高い 人体への刺激が少なく、アレルギー反応などを起こしにくい、体に優しい材料です。歯の周りの組織ともよくなじみます。
- 硬組織誘導能(歯の再生を促す力) MTAセメントが歯の神経(歯髄)に触れると、デンティンブリッジと呼ばれる新しい象牙質(歯の硬い組織)の形成を促す作用があります。これにより、傷ついた神経を保護し、再生させることが期待できます。
これらの優れた特性を活かし、MTAセメントは主に以下のような精密な治療に用いられます。
- 歯髄温存療法(覆髄処置) 深い虫歯の治療で神経が露出してしまった場合、通常なら神経を抜く(抜髄)必要があります。しかし、MTAセメントで露出した神経を直接覆うことで、神経を保護し、抜かずに残せる可能性が高まります。神経を残すことで、歯の寿命を延ばすことにつながります。
- 根管充填(こんかんじゅうてん) 歯の根の治療(根管治療)の最後に、綺麗にした根管内に詰める材料として使用します。優れた封鎖性で、根の先までしっかりと細菌から守ります。
- 穿孔(せんこう)部の封鎖 治療中に誤って歯の根に穴が開いてしまった場合(穿孔)や、歯根の先に病気ができて外科的な処置が必要な場合に、その穴を塞ぐために使われます。従来では抜歯となるケースでも、歯を救える可能性があります。
メリットは非常に多いため当院においてはこの材料しか使用しておりません。
ただ多くのメリットがある一方、以下のようなデメリットも存在します。
- 保険適用外(自由診療) MTAセメントを用いた治療は、現在のところ健康保険が適用されません。そのため、治療費は全額自己負担となり、比較的高額になります。
- 治療技術が難しい 材料の操作が難しく、正確に使うためには歯科医師の高い技術や、マイクロスコープなどの精密な設備が必要となります。
- 硬化に時間がかかる 完全に硬化するまでに数時間かかります。
- 除去が困難 一度固まると非常に硬くなるため、万が一再治療が必要になった場合に除去するのが極めて困難です。そのため、最初の治療で確実に感染源を取り除くことが大前提となります。
- 歯の変色 初期の製品では、成分によって歯が灰色に変色することがありました。現在では変色しにくい改良された製品が主流になっています。(当院においては変色するものは使用していません)
総じて、MTAセメントは、「従来の方法では神経を抜かなければならなかった歯」や「抜歯しか選択肢がなかった」を救うことができる画期的な材料と言えます。ただし、全ての症例に使えるわけではなく、自由診療となるため、治療を受ける際は医師の説明をよく聞いてください。
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